【環境に配慮した小河川の護岸工
ロックフレーム工法について】
おかげさまで、先日、わが家の田んぼの用水路を全面三面張りコンクリートにせず、環境に配慮した石積み工にて、工事を実施するよう、土地改良区に要望を提出いたしました。
要望者は、地権者13名と、自然栽培および自然農法を実施している4名です。
特に工区のある川崎地区にお住いのK農園さんは、奥さまが、野菜出荷最盛期にも関わらず、お忙しい中工事予定地の地主さんの署名を10名も集めて頂きました。この場にて厚く御礼申し上げます。
さて、この石積工は、ロックフレーム工法といい、山口県の造園会社キッコウジャパンで開発されたものです。特徴としては、コンクリート張りによる護岸工と異なり、コンクリート製の枠(枠の製品名は「グリパック」)を河岸に配置し、その中に砕石や玉石を詰めて、石積み護岸として設置する工法です(写真参照)。
この工法であれば、熟練の作業で工程がはかどりにくい、昔ながらの石積み工法が、石積み工に慣れていない、業者や農家が、バックホーを使って、簡単に且つ、低コストで実施出来るというメリットがあります。
また、石積み工による護岸は、コンクリート護岸と比較して
・岸辺付近の流速を弱める→ 魚類や両生類の幼魚・幼生が洪水時に流されず、濁流から避難して生き残る確率が高まります。
・洪水時、陸からの地下水をすみやかに河川に放出します。
→ 洪水時の陸から護岸にかかる地下水圧を逃がすことにより、護岸の洗掘や、倒壊などを防止します。
洪水以外の平常時も陸からの地下水の供給を遮断しないため、渇水することも少なくなります。
※なお、近年、低コストで、小河川の護岸として汎用されてきた、「張ブロック工」
は、見た目は石積み風ですが、表面の凸凹は、単なる装飾であり、実際は、地下水を遮断します。このため、2018年の西日本豪雨災害では、造園関係者のお話では、、施工して20年以内の張ブロック工の擁壁の洗掘や、傾斜、倒壊などの被害が多数あったとのことです。今回の平松水線の工事も張ブロック工が当初予定されていましたが、環境だけでなく、安全のためにも、張ブロック工より、ロックフレーム工法が望ましいと考えられます。
☆農業用水などの土地改良区が関わる事業は、土地改良法第一章第一条第2項で
「土地改良事業の施行に当たつては、その事業は、環境との調和に配慮しつつ、国土資源の総合的な開発及び保全に資するとともに国民経済の発展に適合するものでなければならない。」とされています。
動植物相の豊かな農業用水や、小河川は、大地の毛細血管のようなもので、自然の恩恵によって生きる私たちにとっては、無くてはならない大切な存在です。
もし、お近くの小川や水路が、改修されるようなことがありましたら、是非この環境に配慮され、且つ工事の容易なロックフレーム工を実施するようお勧めいたします。
ご参考までに、以下今回の要望書におけるロックフレーム工の概要をお知らせしておきます
令和元年 月 日
埼玉県川越農林振興センター所長 殿
入間第二用水土地改良区 理事長 殿
要望書
平素、貴機関より飯能市内における自然栽培および自然農(以下「自然農等」)の実施に対し、ひとかたならぬご理解を賜っておりますことを厚く御礼申し上げます。
さて、本年令和元年冬季より貴機関が実施を予定している、入間第二用水平松水線における用水路工事について、私たちは、従来型のコンクリート三面張り工法を行うと、以下の「1.従来型のコンクリート工法の問題について」より、農業においては、土壌環境の悪化、減収等、多大な被害を与え、環境面では、水棲生物の消滅、地域の憩いの場の消滅等に繋がるため、これらの工法の実施は、斜面崩壊等の見られる危険個所のみの、必要最小限にとどめることを要望します。
また、上記危険個所をのぞいた工事区域については、土地改良法第一条第二項および、土地改良法施行令第二条第六号にもとづき、環境に配慮した、昔ながらの石積みを取り入れた「2.ロックフレーム工法(グリパック)について」による工法にて、工事を実施することを求めます。
なお、当該工事の疑義について、飯能市役所秘書課へ「そよかぜ便」にて問い合わせましたところ、飯能市農業振興課長より環境に配慮した工事を行うよう努めたいとの回答を得たところです(別添参照)ので、ご承知おき下さい。
1.従来型のコンクリート三面張り工法の問題について
【土壌の嫌気化】
用水路のコンクリート化により、地下水が遮断され、土壌がグライ土化(還元化)し、土壌の嫌気的環境が、これまでより浅い深度で発生することになります。この結果、水稲等作物の根系の発達に、著しく障害を生じる可能性があります。
また用水路の河床を掘り下げても、岸全体が管理道路造成による路盤工等で締固められ、不透水層が形成されるため、地下水の流れが停滞し、土壌のグライ土化を防止することは困難です。
【減収】
土壌の嫌気的環境は、硫化水素等植物にとって有害な物質が発生しやすい環境となることから、水稲等の根系に悪影響を及ぼし、且つ病害虫の発生も促すため、減収の原因となります。
実際に、当該地域平松水線に沿った農道の、傾斜のある農地が保全対象のため実施したコンクリート擁壁工でも、工事実施後、農地は、降雨時、排水不良で農地が泥沼化し、トラクターがはまる、播種した野菜の収量が、著しく低下する。といった事態が報告されています。
【水棲動物の消滅】
用水路がコンクリート舗装化されることにより、流速が強くなり、魚族が越冬生息できなくなります。このため用水路から稚魚の侵入がなくなり、水田のボウフラ、ウンカ等、有害と思われる虫の大発生を防止することが困難となります
また、肥料を使わない、自然農法等の場合、これら水棲動物の活動に、その肥料となる栄養源を求めているため、水棲動物の著しい消滅も減収の大きな要因の一つとなります。
【慣行栽培に対しての悪影響】
慣行栽培であっても、これらの環境悪化に対しては、減収の影響は免れないため、化成肥料や除草剤の投下量の増大を招き、さらなる、コスト高、水稲の生育環境の悪化を招く悪循環に繋がります。
【従来のコンクリート三面張り工法の耐久性問題について】
コンクリート三面張り工法は、洪水時の湛水により、コンクリート擁壁の側壁、底面に地下水による洗掘を受けやすいと言われています。昨年の西日本の豪雨災害被災地では、特に張ブロック工の被害が大きく、施工後10年も待たずに、土圧で、擁壁が膨れ上がり、タイルが剥がれるケースが多数指摘されているとのこと。
従来コンクリート構造物の寿命は、100年程度が一般的認識ですが、近年の豪雨災害の被害により、土木業界では、50年程度の認識となっているようです。
また現在は政府による、昨年の西日本豪雨災害を受けた財政出動として、全国各地の未舗装の農業用水路の末端までのコンクリート化を、一斉に開始していると聴き及んでおります。しかしながら、向こう20年先に同様の予算措置があるとは考えられず、今後数年先に、豪雨災害を受けた際、地権者や利用者が新たな負担を要求される可能性もあります。その際は、多大な費用負担の生ずる従来型の工法より、洪水時、岸の地下水圧を適切に逃がし、被害を受けても、部分的に補修可能な石積工法がふさわしいと考えます。
【農業関係以外の問題:憩いの場の消滅】
農業関係以外でも、休日は親子連れの釣り、子どもの水遊び、野鳥観察および、野鳥の餌場(チュウサギ、ダイサギ、アオサギ、アカゲラ、カワセミ)、在来動物たちの水飲み場(タヌキ、キツネ、イタチ)などとして、農業関係者以外にとっても貴重な憩いの場となっております。
三面張りコンクリート工にいたしますと、これらのレクリエーションおよび、動物たちの生息の場が失われることになります。
以上から、貴機関が平松水線に実施を予定している河川工事実施にあたり、従来型の工法そのものを見直し、石積工に準ずる、地下水の流れを遮断しない環境配慮型の工法とし、熟練を要さず、且つ工事の総延長が1km程度と長く、大面積であっても、実施可能な、「ロックフレーム工法」を以下により実施することを提案したいと思います。
2.ロックフレーム工法(グリパック)について
当工法は、山口県の造園会社、キッコウジャパンの吉村代表により、考案されたもので、2次製品であるコンクリートの枠(別添参照)を使用し、従来熟練の技術が必要な、石積工を、一般の施工業者であっても、実施することを容易にしたものです。
下記積算例は、コンクリートフリュームおよびロックフレーム工法の設置のみを比較したもので、積算の全容では無いものの、従来型工法と比較して、コスト的にも、大差ないものと考えます。なお、グリパックの加工販売においては、キッコウジャパンと提携する極東興和(株)が全国に展開しているため、当該資材の入手が地域により困難になることは、無いと考えられます。
・ロックフレーム工施工費積算例
☆ロックフレーム工法(グリパック)(機械積み込み、現地路盤工等は別途)
田んぼ側総延長1km、高さ1m(※1)の石積工法(グリパック)とし、山側の石積み工総延長(有効高さ1.6m以内)は施工予定総延長1kmの1/3(300m(※2))とし、グリパックの根入れは深さ0.6mの場合
グリパック枠積単価(資材費込)21,083円/m2
(a)田んぼ側施工費:37,949,400円
(グリパック枠積工費
=田んぼ側:1.8m×21,083円×1000m)
(b)山側施工費:18,974,700円
(グリパック枠積工費=山側:3.0m×21,083円×300m)
(c)法面成型施工費:1,957,500円
切土法面面積=(1.8×1000m+3.0×300m)、砂質土、粘性土
バケットサイズ0.6m3 m2単価725円使用)
ロックフレーム工法(グリパック)のみの施工費=(a)+(b)+(c)=58,881,600円
(比較)
★NSフリューム(従来型コンクリート水路)
①NSフリューム資材価格:52,500,000円
(NSフリューム資材単価52,500円(m当たり)(単位ユニット高1300×幅1600×長2000mm 質量2000kg、施工総延長1000m)
②掘削作業費:2,610,000円
(単価1,045円(m3当たり)×1.3m×1.6m×1000m×1.2)片切り掘削)
③NSフリューム設置:6,405,000円
(国交省の単価では、コンクリートブロック設置工にて代替して積算)
(単価14,731円(m3当たり)×1t×1000m/(2.3t))
NSフリューム(資材費+掘削+設置)=①+②+③=61,515,000円
※1 田んぼ側の傾斜は1:0.5を採用
※2 山側の傾斜も同上、グリパックの有効高さ1.8mを越える箇所は他の工法で実施(他の工法に係る費用については、積算には計上せず。)
※3 グリパック単価は別紙「ロックフレーム工法グリパック積算マニュアル」参照
※4 法面成型施工費、掘削工、コンクリート設置工については、国交省単価を使用
3-1.ロックフレーム工法(グリパック)の粗度係数等の放流能力について
・グリパックによる施工と三面張りコンクリートによる施工の比較
工事予定区域を上流・下流で挟んでいる既存工事区域の三面張り工は、埼玉県の排水便覧による、地域別計画放水量の基準を満たしているため、これを参照し、この上下流の工事を1/2確率の洪水流量流下可能なグリパックに置換した場合、工事断面の横断距離、深さ等は下記の通り(別添「グリパックの性能に関する参考資料」参照 (図面、数値等は極東興和株式会社営業部 溝垣氏より提供))。
☆グリパック上流側断面
台形(上底辺 2.48m、下底辺 1.60m、深さ 1.1m、擁壁勾配1:0.5、盛り切り土法面なし)
★既存工事上流側断面
三面張りコンクリート(コンクリート部分(深さ0.9m、幅1.6m)、法面部分(両
岸共に法面高さ0.2m、法面勾配1割)
☆グリパック下流側断面
台形(全体上底辺 4.44m、下底辺 2.0m、深さ 1.8m、擁壁勾配1:0.5、法面部分(両岸共に法面高さ0.305m、法面勾配1割)
三面張りコンクリート(コンクリート部分(深さ0.9m、幅2.0m)、法面部分(両
岸共に法面高さ0.9m、法面勾配1割)
※1 グリパックの粗度係数については、空石積みに相当し、0.032程度となり、1/2確率の洪水流量を流下しつつも、洪水時、擁壁付近では流速を緩和する働きがあります。
※2 工事横断面については別添「グリパックの性能に関する参考資料」では、両岸ともグリパックを設置した場合の事例のため、田んぼ側の片側のみ、グリパックにした場合は、参考資料に示す横断距離および面積は、更に縮小するものと考えられます。
以上既存三面張り工法と比較して、両岸をグリパックにした場合、断面積、水路横断距離で1.2倍程度の割り増しが必要になりますが、平松水線の用地幅は、5.0m程度は存在するため、下流をグリパックで施工した規模を想定しても、概ね水路敷地内に収まるものと考えられます。
3-2.工事入札の方法について提案
環境に配慮した工事の性質上、単なる一般競争入札は不適切と考えます。可能であれば、ロックフレーム工法等に準ずる環境に配慮し、且つ、経済的な工法を実施する、施工業者への随意契約が望ましいところですが、先般の公共事業における発注事情を鑑みまして、現行の飯能市における「飯能市総合評価落札方式実施要領」に基づく「高度技術提案型」に準じて、実施することが望ましいと考えます。
以上要望いたします。
4.
省略
5.参考資料
①平成30年度施工パッケージ型積算方式標準単価表
(平成30年4月1日以降に入札書提出期限日を設定している工事から適用)国土交通省
http://www.nilim.go.jp/lab/pbg/theme/theme2/sekop/20180515_sekoptanka3004_1.pdf
② コンクリートの比重(単位容積質量・単位体積重量)とは?、コンクリートメディカルセンター https://concrete-mc.jp/specificgravity/
③ けんせつPlaza
http://www.kensetsu-plaza.com/details/ci0615300_mi123130/