トキの棲める里川環境の保全を!

 (※水車揚水試験中の入間第二用水平松水線の用水路) 

 

 

 

 

 

 

 

飯能市長

新井重治様

           要望書

【五年後の全国トキ放鳥(環境省実施予定)にふさわしい里川環境を整えるため、

  飯能市川崎地区にて、現在実施中の用水路護岸工事は、防災上護岸保全が必要な田んぼ埋立盛土箇所および、住宅地に隣接した箇所のみの実施とし、

  その工法は、環境に配慮された、石積み工に準じた「ロックフレーム工」への見直しを以下連名にて要望します。

また2019年、2020年工事実施済み箇所は、排水対策として、部分的に「ロックフレーム工」にて、圃場の透水性を高める改修を行うことを、併せて求めます】

 

はじめまして、飯能東部川崎地区にて、2015年より自然農を営んでいる、のっぽファームの北村と申します。

平素より、市内農業振興に格別のご配慮を頂いておりますことを御礼申し上げます。

さて、当農園は、飯能市東部川崎地区(「人農地プラン」指定地)にあり、周辺はシラサギやカルガモなどの水鳥が多数来訪生息する、のどかな水田風景が広がっています。

しかし、2019年より田んぼのメインの用水路である素掘り水路(「用水路工事現地位置図」参照)の両岸が、入間第二用水土地改良区(以下「入間第二用水」という。)の改修工事により、毎年100mづつ、殺風景なコンクリート護岸と化しています。

 

 

 

 

※工事前の様子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※工事後の様子

 

 

 

 

 

 

この素掘り水路は、田んぼ及び周辺環境に生息する動植物の生命を支える、重要な役割を担っています。

一方、生物多様性豊かな自然環境に依存する、私たち自然農、及び自然栽培等の農業者にとっても、この素掘り水路は、大切な存在です。

このため素掘り水路すべて護岸等がコンクリート化すると、以下の理由で、自然農、自然栽培の営農を続けることが困難になります。

 

すでに、2019年、2020年の工事の結果、工事済みの用水路沿い田んぼでは、コンクリート護岸による地下水遮蔽の影響により、地下水の停滞、排水不良・土質の過湿・硬化(グライ土化)が見られます(※写真参照)。

 

(※工事により、グライ化(粘土化)した現地圃場の土質)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このような地中環境になると、周辺圃場の地中微生物環境が劣化(嫌気的環境)し、稲作等の大幅な減収が起ってしまいます。実際に、工事済み地区に面した自然栽培農家の圃場では、工事による減収被害が発生しており、当該農家から、入間第二用水に対し、土地の排水を改善するため工事やり直しの申し入れがありました。

これにも関わらず、工事を実施する入間第二用水は2019年に、飯能市から勧告を受け、環境に配慮した工事をしていると主張しています。

しかし、上記の土壌関係機能の劣化の他、コンクリート化された水路の護岸は、洪水時の流速が大きすぎるため、魚類の稚魚ほか、水生生物等、洪水時に緩やかな流速の逃げ場所を必要とする生き物が生存できない環境です。入間第二用水は、洪水時魚の逃げ込む魚の「穴」を設置していると主張していますが、20m区間に2か所程度なので、全く機能していないものと思われます。

また、工事以前は、大雨時に、水路護岸背面の地表水および地下水は、透水性の高い自然護岸に、浸透して、水路に排出されるため、水路の山側斜面が崩落するようなことはありませんでした。

 

ところが、今回の工事で、降雨時の圃場及び山側の地下水の流出は、コンクリート護岸で、遮断されてしまうため、大雨時には、圃場はすぐ湛水状態になり、雨が上がっても水はなかなか引かず、山側は、地中地下水の飽和により、斜面崩壊が一部発生しています(※写真参照)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(※工事により、それまで、自然護岸だったときは19号台風ですら、崩れなかった斜面が、コンクリート擁壁で山側地下水の流出が遮断され結果、擁壁背面の地下水の飽和から、斜面上方への地下水の飽和を経て、崩壊した。)

(※別の箇所で、上記と同様の理由で、工事後、盛り土にクラックが生じ斜面が馬蹄形に陥没しながら、土砂が流出)

さて、今年202112月には、入間第二用水は、さらに上流の、山側が福祉施設「太陽の丘(飯能市川崎30‐1)」の裏側斜面まで護岸工事を再開する予定です(「用水路工事現地位置図」参照)。その際、田んぼ側工区は、田んぼ埋立て盛土に面した箇所も実施します。その場合、上記同様の理由で、豪雨時盛土の大規模流出も予想されます。このような斜面崩壊や大規模土砂河川流入を引き起こしかねない工事を、市として、無条件に承認することは、あってはならないと思います。

今年の伊豆の土砂災害事故等、身近な生活環境に隣接した、昨今の土砂災害等の問題を鑑みますと、現地を精査の上、災害の危険が無いことを確認の上、承認すべきではないでしょうか?

 (参考:神奈川県逗子市の斜面崩落事故現場より 緊急提言│地球守 (chikyumori.org)

以上から私たちは、同地区における護岸工事について、田んぼ土壌の健全性の維持、地域の生物の多様性の保持、洪水時の護岸の安定性維持、洪水時の水棲生物保護の観点から、防災上工事も已む得ない区域のみに、石積み工に準じた、地下水の透水性に優れ、洪水時に護岸付近に一定の緩速流が生じる「ロックフレーム工ロックフレーム工法の詳細 - 極東興和株式会社 (kkwn.net)」による護岸工事の実施を、そして、敢えて工事の必要のない箇所には、五年後の本州へのトキ放鳥による飛来を見込んで、当該地域の生物多様性に富む環境維持のため、素掘り水路の保全を、同工事予算1/3を負担する飯能市に以下連名にて求めます。

何卒ご配慮いただけますようお願いいたします。

なお、本要望書表題の、佐渡ヶ島にて増殖中のトキは、5年後に、本土に放鳥することを環境省も表明し、現在、放鳥にふさわしい地域を選定中とのこと(トキ野生化拡大へ 環境省が来春にも5地域「公募」 「持続可能な農業の象徴に」 / 日本農業新聞 (agrinews.co.jp))。

しかしながらトキが生育するため、生物多様性が豊かで、冬季湛水が可能、無化学農薬の、まとまった面積の田んぼが存在する地域は、全国でも限られます。

この点、飯能市川崎地区は「人農地プラン」に飯能市により指定され、無化学農薬による新規就農者多数により耕作されています。このため餌場など農薬の汚染を避けなければならない、トキを放鳥・飛来する場としては、適地の要件を備えています。

(トキの本州への放鳥はこれからですが、飛来実績は、北陸、東北地方(福島、秋田、山形)中部地方(長野)におよびます。)

また、当該区域は、耕作放棄地で発生したヤナギ類や、オニグルミなどを中心にした良好な湿地林を中心として、アナグマ、タヌキなどの哺乳類、オオタカや、カワセミなどの鳥類、ウグイ、ヘラブナ、シジミ貝などの水棲動物などが生息する他、準絶滅危惧種のシュレーゲルアオガエルおよびトウキョウダルマガエル、絶滅危惧種Ⅱ類の二ホンアカガエルなど、レッドリストに掲載される、用水路がコンクリート化されていない環境下でのみ生息可能な両生類も確認され、生物多様性の豊かな地域です。

                 

シュレーゲルアオガエル

 

モリアオガエルに大変似ており、モリアオガエルより、やや小型ながら、同種と同様の泡状の卵を産卵します。水路がコンクリート化すると、這い上がることができなくなります。

トウキョウダルマガエル

 

シュレーゲルアオガエルと同様、前足に吸盤がないため、水路のコンクリート化で、姿を消しています。

二ホンアカガエル

 

産卵時期が3月頃と早春のため、通年水の存在する丘陵地のため池などでしか繁殖できません。上記カエルたちと同様、前足に吸盤がないため、コンクリート擁壁をよじ登ることができません。

2018年の西日本豪雨災害の後、防災の名目で、平野や丘陵地の水路コンクリート化が加速していますが、農業経営・防災・生物多様性上、これは決して好ましいことではありません。トキやサギが舞う、昔ながらの里山、里川の風景に、コンクリート張りの水路は、似つかわしくありません。すでに、入間・日高・飯能・狭山地域では、水路のコンクリート化が進んでまいりましたが、ここ、飯能市の川崎地区の護岸は、数少ない貴重な素掘りの、多くの生き物が生きてゆける護岸です。

是非、環境に配慮した石積工に準ずる工法(ロックフレーム工)または素掘り護岸を保全するという形で、トキが生きて行ける環境を保持していただきたいと思います。

 

2021111日                 

 

               飯能市川崎地区 新規就農者 

                のっぽファーム代表 北村行範

                  

                  以下賛同者(敬称略)

                    

                  飯能市内在住

                  (環境活動家、林業者、

                   アーティスト、主婦、

   会社経営、会社員、

   自営業者、定年退職者、

    市議、工事地区地権

        ほか)25名

 

                   飯能市外在住

 

                    (環境活動家、工芸家、NPO法人代表者、看護師、福祉施設勤務、会社員、主婦、パートほか)8名